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ラブレターフロームカナダ

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道子の日記42~51

第42話、哀しい嘘のつける~人~♪6


先輩がトイレから帰ってきた後は、
彼女を交えての再び色気のない話になっていた。

会社の人事に始まり、
先輩の通っているスポーツジムのジャグジーが最高だとか、
大阪へ来たならまずはここへは観光するべきだとか、、
そんな、どうでもいい話しを私達はしばらく続けていた。


「あ、そこに行って見たいなあ、」


ちょうど、
難波の吉本シアターの話をしたときだった。

先輩が、

「やっぱりこれから大阪人の一人としてこっちで住む覚悟なら、
まずは吉本をチェックしないとね、、」


と言ったからだった。
山君は、楽しそうに私の方を見ながら、
私の返事を待っていたのだろうか、

私は、
次々に来る料理を
三等分にして小さい小皿に盛りながら
彼の視線を横顔で感じていた。

「あ、じゃあ、この週末にでも私が案内します」

そういうと、
ゆっくり山君の方に向き、
肩を少しすくめて恥らうように笑った。

これもあの

「ババたれのおコンパルール」

による、

「見かけとは違う、意外な一面性を見せると効果あり」

というもので、

「ハイ、これ山君の、、」

分けたパスタの皿を、さりげなく山君の前に置いた。


「道子さんって、意外と家庭的なんだね、、、」

効果抜群とは
このことをいうのだろうか、
それに追い討ちをかけるように、

「ええ、週末は自分で料理したりするんです、
私って、オフィスのスーツよりもエプロン姿のほうがよく似合うかも、、」


と、
最後まで言うか言わないかで
山君が
私の手を急にとったのだ。

「おお、、道子さん、爪、何も塗ってないんだね、、」

「え?ええ、、、」

服のことばかりを気にしていて、
昨晩塗るのを忘れていたのだ。

私は握りこぶしを作るようにして、
自分の爪を隠そうとすると、

「僕、爪の真っ赤に染まった女性って苦手なんだよね、
塗っててもピンクか透明、できれば何も塗ってない女性のほうが
いいなあ、、、、」


そう言いながら、
山君はまじまじと爪を眺めたあと、
何気に先輩の爪を見た。

パスタの皿を忙しげに持つその指からは、
みどりの鱗みたいな爪がつくしのように
にょきにょきと伸びていたのだ。


私と山君の視線に気がついた先輩は、

「あ、私の彼はね、こういうのが好きなのよ、フン、、」

と、罰悪そうに笑いながらパスタの
小皿をテーブルの置いた。


そんな寂しげな先輩をどんどん置いていくように、
私達は彼女の前で

かなりラブラブになりはじめていた。


                      
                             続く

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第43話、哀しい嘘のつける~人~♪7


私の手を握る山君が手から
彼の暖かさが伝わり、
自然と
再び、あの曲が私の頭の中でなり始めていた、、、。




♪あ~あ半年あまりの恋なのに~♪
♪あ~あエプロン姿がよく似合う~
爪も染めずにいてくれと~~
女が後から泣けるよな~♪




だが、その後が何故だか続かず、
壊れたレコードのように
何度もこの部分だけが
頭の中で続いていた。

今思えば、ただ単に
私がその後の台詞を頭の中に入れたくなかったのかもしれない、、、



「ピンクのフリフリエプロンでも買おうかな、、、」


そんなことを考えながら
私は彼の部屋のキッチンに立つ自分を想像していた。
暖かくってピンク色の空気が流れる
山君からの愛情が、
私の胸を締め付け、
私は生まれて初めて、


生きてきた甲斐があったわ、、


という気持ちにさせられていた。
女としても幸せを生まれて初めて感じようとしていたひと時だった。

もちろん、母親や父親は私を慈しみながら育て、


「この世に存在する価値」


を自分で認識できるほどの
愛情は彼らから受けていた。

だが、今まで一度も男性から愛の告白をされた事がない
私にとって(アホ勝田は別)
家族以外の人間に、私を必要としてくれる人を
ずっとずっと探していたのだ。

そして、その男性が現れたのだ。






「ねね、今度は僕のおごりでバーに行かない?」

私達が
レストランの会計を済ませた後、
山君が言い出した。

「それかさ、僕の部屋に来る?実はさ、小さいバーカウンターをキッチンに作ってもらうように
依頼してて、それが昨日出来上がってね、、、
僕のつくるカクテルは結構いけるよ、、、」


「え?バーカウンターを作ったって、引っ越してきたばっかりじゃない、、」

「ああ、そうなんだけど、、、
最初は賃貸でどこかに部屋を借りようと思ったのだけど、
この部署もこれからもずっと続くだろうし、、、
まあ、大阪に半分骨を埋めるつもりで
マンション買ったんだよ、、、
ここからだと、歩いて十分もかからないし、、、
僕の部屋に行ってみる?」



さすがは
ボンボン山君であった。
いつまで続くか分からない新部署の為に
梅田の一等地にマンションを購入したのである、
おまけにキッチンには小さいバーカウンターまで
作った~?


このボンボン発想は

「どどど平民道子」

の私には
度肝を抜かれるようなものであった。
だがよく考えると、
きっと私もこのまま山君と付き合い
結婚までこぎつける事が出来れば


「お気楽世間知らずマダム道子」

になるのかもしれない、
と、
少しだけリッチセレブな自分を想像したりしていた。

いつまでたっても超おめでたい自分であった、、、。



                       続く



山君の部屋からどんな夜景が見えるの?私も大阪に観光に行ったときには彼の部屋に寄ってみたい!って思う人は、
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第44話、哀しい嘘のつける~人~♪8

「ええ~すごい、バーカウンタ~?私も行きたい!」

勢いよく言い出したのは先輩だった。
こんなにも私と山君がいい雰囲気にもなっているのに、
この先輩は遠慮するどころか
私達の中を割り込もうという気迫さえ感じさせるなにかがあった。


「え、でも先輩、先輩の家って枚方だし、もうすぐ最終電車の時間ですよ、、
それにそれを逃したらタクシー代も馬鹿にならないって
いつも言ってるじゃないですか、、、」


なんとか彼女を阻止しようとしていた。


「いいのよ~、そんなのどうにかなるわよ~ねえ、山君」

「まあ、明日は土曜日だし、なんなら
僕の部屋に泊まってもらってもいいんですよ、、」


「そう~じゃ、泊まって行こうかな~!」


なんで、どうしてこうなったのか、
どうして自分で彼女を阻止できなかったのか、
どうして彼女は遠慮しなかったのか
その時、私はどうしていいか分からず、
ただ、かなり乗り気な先輩を断る事も出来ずに、
私達三人は、
山君の住む高級マンションへと向かったのである。


10分、歩いたか歩いてないぐらいで、
ビジネス街だった景色が急に住宅街に変わった。
ちょうど小さな公園に着いたときに
山君は立ち止まり小さなコンクリートで出来た
お洒落なマンションを見上げたのだ。

「ここの3階なんだ、、、」

昔、いや、今でも流行っている安藤忠雄建築のコピーとでも
言うべきデザインだろうか、
全体がグレーカラーで、所々に
赤い色の手すりがチラホラ見えていた。

私達は赤い手すりの階段をあがり
山君の部屋へと向かった。

「山」と書かれたビーチで拾ってきたような小さな木の切れ端が
かかっている白いドアを開けると、
かなり大きな1LDKの部屋が広がっていた。


「うわ~素敵!」

やはり、一番先に靴を脱いで上がったのは先輩だった。

「こんなところ住んでみたいわ~」

私が言おうとしていた台詞を先に言ったのも先輩だった。
少し悔しい思いをしながら
私もすぐに先輩の後について部屋に入った。

山君はすぐにバーカウンターへ向かうと
何かを作り始めていて、
その間、私と先輩はかなりシンプルな
白のレザーカウチに座っていた。


「道子さん、この部屋すごく素敵よね~
私、山君の彼女になって、毎日ここに出入りしたいわ~」


と、なにやら
怪しげな言葉を先輩は口にしていた。

「ねえ、道子さんもそう思うでしょ?」


「え、ええ、もちろん、、」


先輩の勢いに負けて
カウチから落とされそうになっていた時だった。


「ハイ、これ、、」

山君が足の長いお洒落なグラスにピンク色の液体を入れて
持ってきたのである。


その液体を薄暗いブルーのライトに照らしてみると
なんだか魔女が作ったような
何か秘密めいた色を放っていた。

「これ、なんの飲み物?」

すこし照れたように笑う山君は、

「即席で作ったんだ、名前はMICHIKO、今名づけた、、、。」


山君のその言葉で
私はトロトロに溶けそうになっていた。


「道子さん、こっち来てみて、、、」


酔っ払って口うるさい先輩をカウチに残し、
山君は勢いよく私の手をひっぱり、
ベッドルームへと導いたのであった。

山君に強く握られた手の感触によって、
私の中の、


「男にぶんぶん振り回されたい」

願望が
騒ぎはじめていた。

                   
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第45話、哀しい嘘のつける~人~♪9


公園しか見えない大きな窓のあるその部屋で
私は山君と向かい合って立っていた。

部屋のライトが薄暗く
外からもれる街の明かりによって
山君の肩幅の広い「男」の輪郭だけが見えていた。

先輩の事が少し気になりながらも、
ただ、山君から目が離せずにいた。


「道子さん、
前からずっとこうしたかったんです、、、」



昔みた、二時間ドラマを思い出していた。
女社長が主人公のそのドラマは、
数々の男とで繰り広げられる、
彼女の奔放な恋愛で終始描かれていた。
彼女は同時に色んな恋人と色事を重ね続けるのだが、
その相手の一人が彼女の部下だった。
彼女の部下は、昼間も敬語、ベッドの中でも敬語を使っており、
その彼の言葉がやけにエロっぽく、
そんな状況に自分が置かれることに少し憧れたりしていたのだ、、。




あのドラマ同様、
会社の先輩と後輩の域を超えたこの状況の中
山君の口から出てくる敬語にエロティシズムを感じていた。



山君は、
恥らう私を楽しむように、
ふわふわの綿菓子をそっと置くように
私を持ち上げてベッドに置いた。


「今日は二人の記念日にしましょう、、、」



背の少々低い山君の
体が私を覆おうとしていた。

彼の男臭い匂いが心地よく私を包み、
そんな美味しいチャンスを拒むことも出来ず、
かといって、受け入れるべきかどうかを最後の最後まで
迷っていた。


ずっと失いたかった「処女」を
こんなに素敵なワイルドボンボン山君が
奪ってくれようとしている、
なのに、
彼の体がしっかりと私を覆うまで

私は色んな事を
頭の中で考え、


「ババたれのおコンパルール」

による
最後の審判を仰ごうとしていた。



「えっと、山君に今日お持ち帰りされたけど、
彼とは長い付き合いで、
知り合ってその日のお持ち帰りされたわけじゃないし、、
これはクリアやな、、、、

えっと、後、今日の下着は何だった?
あ、阪急で買ったあれだ、あのピンクの紐ぱん、
セクシーだよね、OKやんな?

えっと、
パンティライナー取っていたっけ?
さっきトイレで取ったやんな、、
多分、、(汗)


どうしよう、どうしよう、、
キスもしたことないのに、
最初のキスで舌は入れるべき?
入れるって、でもどうやって、、

初めてだってことを最初に言うべきなの?
それとも何度もした事があるように
装うべきなのかな、、、

でも装うってどうやって????



そ、そ、それに、あの先輩はどうするの?
私の初夜の日に先輩は外で全部聞いているじゃ~~ん!!」




山君の体の重みを感じたと同時に、
最後の審判が下された。



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第46話、哀しい嘘のつける~人~♪10


「山君、ちょ、ちょっと待って、、、」


「え?」

「今日は駄目なの、、、」

「どうして駄目なんですか?」

「だって、先輩が外で待ってるし、そのその、、、」


私の腰にまわった山君の手が
もっと私を抱き寄せた。

「大丈夫、彼女は酔っ払ってカウチに寝ていたし、、」

「でも、その、、
今日はそんなムードじゃなくって、、
なんて言うか、、
いくら先輩が寝ていても

やっぱり私

出来ない、、、、」



山君は少し困った顔で私を見つめていた。
きっと彼の心よりも
体が欲しがっていたに違いない、、、

暫く見つめあった後、
山君は視線を落とし、

「そっか、、、、」

と、無理矢理の笑顔を私にさしむけた。


「ごめんなさい、、」

「わかった、、、、」


山君は少し寂しげにベッドから立ち上がると、
外れたボタンを留めなおし、


「何か作ろうか?僕も何か飲み直したいし、、」

「じゃ、さっきのMICHIKOをお願い、、、」

彼は私の目を見ずに
軽き頷き
部屋を出て行った。

私は薄暗いところに一人取り残され、
ただ無性に
先輩の存在が腹立たしく、
どうしてあの時はっきりと

「二人にさせてもらっていい?」

って言えなかったのだろうかと
かなり後悔していた。


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第47話、哀しい嘘のつける~人~♪11


時計の針は1時をさしていた。
遠の昔に終電は終っていた。

「今日はもう土曜日か、、、
朝が来て、一度家に帰った後
デートでもしてくれないかな、、、
いや、頑張って自分から誘ってみようかなあ、、

そうだ、
昼間は、二人で吉本行ってもいいし、
あそこのたこ焼き屋さんに連れて行ってあげようかな、
神座のラーメンもいいしな、、、

その後は、梅田の観覧車に乗ってもいいしな、、」



梅田に観覧車が出来てから、
一度でいいからあそこに
大好きな人と乗るのが夢だった。

昔、女友達と初めてその観覧車に乗ったとき、
ちょうど若いカップルが私達の前に座った。
彼らは観覧車が動き出すと、景色をみるのをそっちのけで
超イチャイチャしだしたのだ。
もちろんのこと、
彼氏の居ない私達も
梅田の綺麗な夜景など目に入るはずもなく、
全神経が彼らに注がれ続けていた。

それからというもの、
あの中で超イチャイチャするのが夢になったのだ。


「今夜、彼を断ってよかったかも、、、、
生まれて初めての初キスは
梅田の観覧車だと最高なんだけどな、、
そしてその後に、今の続きを、、、」



かなり長い間、
一人夢心地に浸っていた、、、、
男と女の生理が全く違うことを
処女だった私は理解するはずもなく、
山君も自分と同じ気持ちでいてくれる事を信じていた。


色々と明日のデートを想像しながら
すこし横になった。
目を閉じると
楽しい想像がどんどんと遠くに行ってしまい、
それと共に
私の体がベッドへとどんどん沈んでいくような
感覚を覚えた。





しばらくして、
私は目を覚ました。

再び時計に目をやると、
小さい針が2を指そうとしていた。

「え?もう二時になったの?」

暫く寝込んでいたのだ。
部屋を見回しても山君の姿もなく、
先ほど山君が作ってくれるといったカクテルも
何処を見渡してもなかったのだ。

「まさか、、、カクテル作るのに1時間もかかるはずないし、、」

そう思いながら
私は立ち上がり、
少しだけ開いていたドアをそっと開けてリビングを見渡したのだ。

先ほど付いていたブルーのルームライトも消えていて、
部屋は暗く何も見えなかった。

「寝たのかな、、、?」

そう思い部屋を出ようとしたときだった。

―スーッ、、、スーッ、、、スーッ、、、ー

と布が何かに擦れるような音がリズムよく聞こえてきたのだ。



 
                     続く




本日も外出先からの更新です

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第48話、哀しい嘘のつける~人~♪12


私はリビングに出るのを止め、
息を殺し暫くそれが何の音なのかを
確認していた。

―スーッ、、、スーッ、、、スーッ、、ああ、、、ー

もう一度リビングを見渡したが
やはり何も見えなかった。

―スーッ、、、スーッ、、ああ、ああん、あああんー

先輩の声だった。

―あああん、あん、あああん、、、-

この全く経験のない

「処女なババたれ」

でも、
部屋の外で何が起こっているのか容易に想像がついてきた。


そう、私との、ちょっとしたイチャイチャにより、
発射準備オッケーになってしまった山君を
そそのかすのは簡単だったのだ、、、。


「どうしよう?」


暫くの間、
その言葉だけが
私の頭の中をグルグルと周っていた。

今外へ出れば
きっと私は何かを目撃し、
それを許す事が出来ずに
私は山君と付き合う事はできなくなるだろう、、、

でも、今ここで寝たフリをして
朝を迎えれば
全ては私の想像で終わり、
何も無かったように
山君とデートの約束が出来る、、、




「さあ、どうする私?」



暫く握りこぶしを握り締め、
あの変な音を聞きながらドアの影に立っていた。


そして哀れにも、
私が下した第二の審判は、
即効寝たふりをするように
ベッドにもぐりこんだのである。



「今さえ我慢すれば、明かるい未来が待ってる、待ってる、、


お気楽世間知らずマダム道子、
お気楽世間知らずマダム道子、
お気楽世間知らずマダム道子、、、」





そう思えば思うほど
涙が頬をつたい流れた。



                         続く





本日も外出先からなので、短くてごめんなさい
同行人の目を盗んでの更新です

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第49話、哀しい嘘のつける~人~♪13



10分ほどだろうか、
暫くベッドにうずくまっていた。
そんな自分が滑稽で惨めで、
居ても経っても居られなく

私は勢いよく飛び起きて、ベッドの上に仁王立ちしたのだ。


「泣いている場合じゃないわ、
私がなんで
我慢なんかしやなあかんねんな!
幸せにならなあかんのに、
なんで私はここでうずくまらなあかんねん!!!」



恋に破れた悲しみは
彼と先輩への怒りに変わったのである、


処女を失いたい、
山君を手に入れたい、
幸せになりたい、

そればかりを追っていた私は
目先の事が見えていなかったのだ。


「帰ろ、、」

暗闇の中、
そう独り言を言うと、

きっと山君と先輩がいちゃいちゃしているだろう
と思われる、真っ暗なリビングを駆け抜けた。

家の外へ出る途中、
リビングのカウチに置いたであろう
自分のバッグを急いで手探りで見つけた後、
玄関へ向かい、
自分のブーツを鷲掴みにして
外へ出た。

今思えば
借り物競争的な走りだった。


私は素足のまま階下へ降りると
ブーツを急いで履いた。

そしてもう一度、
そこから立ち去る前に、
彼のマンションを見上げたのだ。


「やっぱりね、、、」



彼は追ってはこなかった、、、。
私が玄関から出たのは絶対に知っていたはずだった。

あのレストランでの愛の囁きは?
これからの私達の関係は?

それに先輩も
婚約者が居るにも関わらず、
どうして山君とそういう事ができるの?
山君が
欲しいなら、どうして私に紹介したの?



深くため息が混じった、
寂しい独り言が夜空に消えていった。


                  続く




本日も外出先からなので、短くてごめんなさい
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第50話、哀しい嘘のつける~人~♪14


その次の月曜日、
山君は私の帰りで駅で待ち伏せしていた。

仕事を終え、私は先輩の顔を見ないように急いで部署を離れた。
エレベーターを降りたとき
ロビーの入り口付近にある大きな柱に体をもたれさせ
うつむき加減で立っている山君が見えたのだ。


彼は私の姿をみつけるやいなや、
少し罰悪そうな顔で、私の方に駆け寄ってきた。


「道子さん、、あの、、、金曜日はごめんなさい、、
なんていって謝っていいか、、、」



彼は私に素直に謝ってきた。


「いいわよ、謝らなくて、、起こってしまったことはしょうがないし、
私達、付き合うって言ったって、
ただの口約束だったし、、、」


山君にどう接していいか分からず、
少し困ったような顔でその場を立ち去ろうとしていた。
心を傷つけられたことは確かだったが、
まだ何も始まっていない彼との関係を
忘れるのは簡単だったのかもしれない、、、。

「じゃ、、、」

「ちょ、ちょっと待ってください、あの、できれば、食事、いや、
お茶だけでもしてもらいたいんです、、弁解というか、、
言い訳というか、、道子さんに伝えたいことがあって、、、」





彼の少し切羽詰ったような行動に流されて
私達は会社の近くのカフェに行くことにした。

カフェに着き、
大きな観葉植物の陰にある、あまり目立たない席に座ると、
彼は一枚の封筒をテーブルの上に置いた。

「これ、僕の伝えたいことをここに全部書いたんです、
読んでください」


「今ここで?」

「ハイ、、。」

彼の視線が私を真っ直ぐと見据えていた。
彼との関係が何もなくなってしまった今、
私は照れずに彼を真っ直ぐに見る事ができた。

少しだけ無精ひげのある顎の先には、
私の大好きなもみ上げがあった、、、。


ただ断る事が出来ず
私はその封筒を開き、彼の目の前で読み始めた。


“ごめんなさい、
金曜の夜はごめんなさい、、、


あれから、
ベッドルームを出てから
カクテルをつくりにキッチンに行ったのに、
そのまま疲れてカウチで寝てしまいました。

道子さんが思っているようなことは
一切何もありませんでした。”



小学生が書いたような反省文を
丹念に二度ほど読み返した後、
私は
ゆっくりと山君の顔を見上げた。


「どうして手紙に?」



タバコの煙が入ったのか、
目を少ししょぼしょぼさせながら
目を伏目がちにした彼が、
情けなく座っていた。

「僕って、弁解するのが苦手で、、、
手紙で僕の気持ちが伝われば、、と、、、」


そういうと、
彼は、まだ半分吸い終わったか否かのタバコを
口から離し
急いで灰皿に押し当てた。
そして急いで新しいタバコを口に押し込むと、
震える手で火をつけた。

「信じてもらえるかどうかわかんないけれど、
あの夜は、本当に何もなかったんです、、、

あの後、道子さんが出て行ったのを知って
すぐに追いかけたんですが、、、」



そう言い終えると、
2,3口しか吸っていないタバコを再び
急いで灰皿に押し当てた。



                           続く


いつも有難うございます

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第51話、哀しい嘘のつける~人~♪15



あの曲が再び私の頭の中でなり始めていた。


♪折れた~タバコの吸殻で~
あなたの~嘘が~分かるのよ~


今まで言葉の意味も理解せずに歌っていた歌、
それがぼんやりとだが、
山君の仕草を見ながら
理解し始めていた。




「分かりました、この手紙の意味、、、

でもね、無理、
やっぱり無理、、、」



大きく息を吸い込んだ。
そして山君の次の言葉を待たずに
私は席をたった。


「ちょ、ちょっと、、、」


誰かが
私の後を追っかけている
そんな言葉が聞こえてきたが、
私は振り返らず
そのままカフェを後にした。

5分ほど小走りに走りながら、

「男は女の何を見て嘘を見抜くのかな、、、」

などと考えながら後ろを振り返った、、、。

追っかけて来て欲しかった山君の姿は見えずに
変わりに大きなオレンジ色の夕日が
私の目に映った。

淀屋橋の、
ビルの合間から夕日が沈もうとしていたのだ。

それがやけに美しく見えて、
少し心が浮かれ始めていた。
何か新しいことを起こしたい気持ちといえば
いいのだろうか、、、。


「有給休暇使って早めに辞めるかあ、、、」



山君に騙され、その上嘘をつかれ、
先輩には裏切られ、
本来ならば悲しむはずなのだろうが、
その日の私は違っていた。

迷っていたものがすべて無くなったせいだろうか、
枝分かれしていた道が一本に見えてきたのだ、、

私の心は軽かった。








その一ヵ月後に引き止める部長を振り切り、
強引にも私は退職した。
それから4ヵ月後の正月明けに、私はカナダへと
無謀の旅に出たのである、、、。



          道子の日記1、終わり、道子の日記2へ続く



いつも有難うございます

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